「一般海域における船舶燃料油硫黄分規制」

背景

国際海事機関(IMO)による「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL条約)における改定附属書VIの2008年改正に基づく船舶燃料油硫黄分規制が、2020年1月1日から施行されます。この改定により、「一般海域における船舶燃料油硫黄分規制（Global Sulphur Cap 2020）、(以下、「2020年規制」)」への対応として、船舶からの硫黄排出量を大幅削減することになり、海運業界が環境責務を果たすことになります。

「一般海域における船舶燃料油硫黄分規制（Global Sulphur Cap 2020）」

2020年1月1日以降、MARPOLにより、排出規制海域(ECA)以外で使用する燃料油中の硫黄分濃度の規制値が、現行の3.50%(m/m)から0.50%(m/m)へ強化されます。MARPOLが規定する排出規制海域(ECA)では、依然として0.10%が適用され、その地域の規則も変わりません。

IMO　第73回海洋環境保護委員会（MEPC 73）の審議にて、注意事項とともに、2020 年3月1日に発効する、船上での非適合油の保持を禁止するMARPOL 条約 附属書VI 第14規則が採択されました。排ガス洗浄装置（スクラバー）を装備した船舶は、船舶のエンジンおよびボイラーの排ガスから硫黄酸化物を除去し、硫黄排出量を許容限度以下のレベルに低減するよう設計されていることから、引き続き0.5% m/mを超えた硫黄含有量の燃料油を保持できるとしています。メンバー様におかれましては、寄港の前に、港がオープンループスクラバーの使用や、スクラバー使用による洗浄に関する禁止事項や追加要件の有無を提示しているかどうかの確認が必要です。

なお、IMOはホームページ(IMO’s website (http://www.imo.org/en/MediaCentre/PressBriefings/Pages/10MEPC-74-sulphur-2020.aspx) にて、規制適合燃料調達不可時の報告書(FONAR)を含むさらなる指針を掲載しています。MARPOL 条約 附属書VI 第18規則 では、船舶が適合燃料油を調達出来ない場合に、その理由をFONARに記載し、締約国に提出可能としています。但し、FONARを提出すれば、免除されるわけではないことにご留意下さい。そのような場合に対応した、IMOが発行したポートステートコントロール（PSC）のガイドラインにあるとおり、締約国は、非適合船への強制執行に関して、FONARを含めた他の書類も確認することとなります。強制執行に直面した際は、メンバーの皆様は、法令順守のために手を尽くしたことを書面で立証しなければなりません。

2020年規制の執行義務について限られた例外としては、船の安全を確保するために必要な排出や、海上における人命救助、または船体や船内機器への事故による損傷に起因する排出が特定の条件付きで認められています。

 P&I クラブカバーについて

国際P&Iグループ（IG）は、2020年規制が海運業界にとって重要な課題であることを認識し、IMOにおける議論を注視しています。

2020年規制に違反した場合、罰金・抑留の他、場合によってはPSCによる禁止命令等の処罰が下されます。2020年規制による既存のクラブルールの改正はなく、これまでと同様、当クラブはMARPOL条約に関する違反を容認しません。ただし、純然たる無過失による非適合な排出に対する罰金を含む賠償責任については、保険契約規定および適用条件に従い、P&I保険にててん補します。これは、メンバー以外に課された罰金に対する弁済義務も含まれます。

その他の罰金については、例えば、MARPOL条約上の書類やその他の要求事項に対する違反（不正確または不適切な記録管理、非適合燃料油の保持または使用等）に関するてん補の可否は、クラブの理事会の裁量によって決議されます。このような裁量に任された事例の補償について理事会が決定を下すまでは、クラブが保証状を提供することは難しくなる可能性があります。もし提供出来たとしても、現金または銀行保証等のカウンターセキュリティーとの引き換えとなります。この点におけるクラブの立場は、国際P&Iグループの過去の回報にて纏められた、MARPOL条約への違反に関する方針と同様です。

2020年規制は、特定の状況では、前例のないP&I保険の対象になり得ると認識されています。例えば、相当な注意を尽くしても発見出来ないスクラバーの技術的な欠陥があり、それにより汚染洗浄水の排水や、偶発的な非適合な硫黄排出が発生するかも知れません。一方、規制の違反によって船舶の堪航性が失われたと解釈される場合もあり、保険てん補が難しくなる可能性があります。但し、個々の事案の状況によりますが、規制の違反によって、必ずしも船舶が不堪航と解釈されるわけではなく、また、保険てん補が必ずしも受けられなくなるというわけではありません。

ご不明な点がございましたら、当クラブへお気軽にご連絡下さい。

なお、国際P&Iグループの全てのクラブのメンバーの皆様に、同様の回報をお送りしています。

以上、宜しくお願い申し上げます。

キャサリン　ドイル

デピューティー ダイレクター

The North of England P&I Association Limited / North of England P&I DAC