ITOPF(国際タンカー船主汚染防止連盟)は油濁事故に際して、客観的な技術面のアドバイスを提供することで海運業界全体に広く知られています。恐らく、それ程よく知られていないことは、ITOPFが組織内に幅広い専門知識を持ち、油濁の他にも、貨物が関連する汚染事故の際にメンバーの皆さまをアシストできることです。この専門知識の一例には、液体と固体のばら積み貨物の流出や、コンテナが関係する事故も含まれます。
タンカーだけではありません
実際の汚染事故、またはその脅威に対して、ITOPFは弊クラブの全てのメンバーにご利用いただける、大変貴重なリソースです。ITOPFは油流出への効果的な対応を行うために、また 環境及び社会・経済的な損害を最小化するために援助を行います。ITOPFのサービスには損害評価、賠償請求分析、緊急時計画策定および助言活動、訓練、セミナーおよび情報サービスが含まれます。事故が発生した国の油流出事故に対応する能力・経験次第では、このようなサービスは極めて重要なものになり得ます。
意外にも、ITOPFは近年、タンカーからの積荷油流出よりも、タンカー以外からの燃料油が絡んだ汚染事故の方により多く対応してきました。これはタンカーからの流出が、世界的に減少傾向にあることを示しています。
TANKER vs NON-TANKERタンカー対非タンカー
20 + incidents per year 一年につき20件以上の事故
Number of incidents 事故数
Tanker タンカー
Non-Tanker 非タンカー
油だけではありません
積荷油と燃料重油が絡んだ汚染事故は、従来から現地メディアおよび国際メディアで最も注目を集めてきました。石油の流出はメディアの大きな関心を呼ぶため、事故発生後、早期段階でのITOPFの関与は大いに有益となり得ます。しかし、石油以外の物質による汚染についてはどうでしょうか?石油・重油が絡む事故に比して、 一般の人々やメディアの関心は低くなるかもしれませんが、環境への影響や、人体の健康に直接的な影響を引き起こす可能性のある物質もあります。また、このような事故には、慎重かつ安全な対応が求められます。ITOPFが対応できる石油以外の汚染事故には、以下のようなものが含まれます。
コンテナの損失 コンテナ船から海へコンテナ貨物が流出する事故は頻繁に発生します。コンテナ輸送の性質上、中身である貨物の種類は、関連する汚染リスクと同様にかなりの多様性があります。貨物は化学物質のような危険物から廃棄物、プラスチックのように表向きは問題のなさそうな物質に至るまで多岐にわたり、それぞれが海洋環境に何らかの影響を及ぼします。化学物質は明らかな海洋汚染を引き起こしますが、ナードルなどの、危険ではないと思われるプラスチックの原材料も、海洋生物に対して有害な影響を及ぼしかねません。たった一つの40フィートコンテナに10憶個を超えるナードルが収納できるのです(ナードルはレンズマメぐらいの大きさの、小さなプラスチックの粒で、ほとんど全てのプラスチック製品の製造に毎年使われています)。
石炭 過去10年間で、ITOPFは積荷である石炭が関連する12件の汚染事故に対応しました。 石炭は油より沈みやすく、分解するのにより長く時間がかかり、重金属が多量に含まれていますので油汚染に関する対応とは異なります。石炭は海洋生物に重大な影響を及ぼしかねません。
化学物質のばら積み貨物 化学物質の流出への対応は、油の流出への対応よりも難しくかつ危険なものとなり得ます。石油製品の特質や反応が概ね均一なのに対し、化学物質にはその特質や反応にかなりの開きがあることから、世界中で、化学物質に関する専門的な知識が十分に蓄積されていないのが現状です。化学物質流出時の対応については、空気や水、他の化学物質との反応も考慮する必要があります。人体の健康および致死に対する潜在的なリスクも高い上、それらのリスクが必ずしもすぐに明らかにならない場合があります。
ITOPF:念のため
ITOPFは以下の分野のみならず、他の関連分野についても専門性を有しています。
- 大規模な海上事故
- 油流出事故
- タンカー事故
追記:ITOPFについて
ITOPF、国際タンカー船主汚染防止連盟は汚染事故に際して技術的アドバイスを提供する非営利団体であり、国際グループに所属する13のP&Iクラブを通じて海運業界が出資しています。彼らのサービスはすべてのノース加入船に対してご利用いただけます。2018年度版ITOPF便覧は、こちらからお読みいただけます: https://www.itopf.org/fileadmin/data/Documents/Company_Lit/ITOPF_Handbook_2018.pdf
著者: キャサリン・ドイル
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