船舶での薬物輸送

ある内部調査によると、違法薬物取引は年間4,000億ドルを超えている。コロンビアでは1グラムあたりでコカインの方がコーヒーよりも安価に製造できる。これを世界的な薬物依存と掛け合わせることで、低コストかつハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルを実現できる。

首謀者

この大金を掴むチャンスは主要な国際犯罪組織やテロリストたちにとって魅力的である。違法な品物を輸送している者は首謀者ではない。では誰なのか。

密輸する者

麻薬の密輸に船舶を使用している場合、乗組員は麻薬が荷積みされていることを全く知らないケースがほとんどである。このような場合、怪しまれずに船内を移動できる港湾スタッフなどが関与している可能性がある。また、密輸人は岸壁や停泊場所から船舶に乗り込む（または船体に麻薬を取り付ける）場合もあり、手口は様々だ。

狙われる乗組員たち

乗組員は狙われやすいだろう。プロの密輸人は乗組員の上陸中の休憩などで打ち解けたり、金銭的な悩みや薬物依存を利用したりし、狙ってくる。恐喝もひとつの方法として考えられる。

密輸人にとって乗組員は使える駒である。タンク、密閉スペース、倉庫など、船内の麻薬を隠しやすいあらゆる場所にアクセスできるからだ。機関室などは最適だ。乗組員が密輸人でなくとも、船舶を使った麻薬運搬は容易なのである。

見張り役がいることが分からない場合もある。見張り役は、たとえ船舶の運航に支障をきたすことになったとしても、あらゆる手を使って成功させようとする。

乗組員はターゲットにならないようにお互いを守る必要がある。会社は乗組員に信用される内部報告の方法を準備するべきだ。

港湾と経路：新たな懸念

世界中で90%以上の品物が海上輸送されており、新興国と途上国の間の取引状況は絶えず変化しているため、違法な品物を運搬する新たな機会が生まれ続けている。

近年コロンビアからメキシコへの海上輸送取引でにおいてコカイン発見される事件が目立って増加している。そのひとつはバルハンキラからアルタミラまでの海路だ。最近、エクアドルからのコカイン密輸に関連した事件が急増している。また、トルコ及びアルジェリア荷揚げの際に麻薬が発見されている。

麻薬は間接的な経路を介して輸送されることもある。主要な海路のセキュリティが強化されるようになると、密輸人は警備が緩い国や堕落した政府関係者を狙う傾向にある。

麻薬の密輸場所

船舶内には麻薬が密輸されやすい場所が多く、全てをリストアップすることは難しいが、以下に薬物が一般的に見つかっている場所をいくつか挙げている。

ばら積み貨物内：麻薬はばら積み貨物の中にも隠されており、清浄な穀類貨物でも、石炭や鉱石といった汚れた貨物でも起こり得る。貨物倉内の梯子付近でも発見されたことがある。

コンテナ内：コンテナに侵入し（その後セキュリティシールを元に戻す）、中の貨物に麻薬を隠すことが一般的な方法である。リーファコンテナ内の設備空間は、便利な隠れし場所になるためよく狙われる。

RO-RO船：車、貨物車、トレーラー、またはバスなどの貨物に麻薬を潜ませる。

船内持ち込み：訪船者や乗務員であれば、船内に荷物を容易に放置して立ち去れる 。

船外：麻薬を船体に装着する方法であり、通常はラダートランク、場合によってはダイバーが停泊中の船の船体に水中から麻薬を取り付けることもある。

運航中：スピードボートを使用して運航中の船に麻薬を取り付ける。

船舶を使った麻薬の輸送対策

船舶および乗組員が麻薬輸送の被害者となるリスクに結びつく地域がある。密輸を防止する魔法のような解決策はないが、安全を維持するために実施できる対策はある。

船主と乗組員が実施している対策はそれぞれのリスクによって異なる。南米諸国から北米またはヨーロッパへの航海は明らかにリスクが高いが、世界中には他にも多くの麻薬経路があり、これらは船舶の航海におけるリスク評価の一部に含まれるべきである。

リスク評価の手順

• 港湾のセキュリティレベルを確認する。警備フェンス、ゲート、照明、防犯カメラ、巡回などは実施されるべき対策の一部に過ぎない。港湾の安全対策が不十分な場合、船舶へのリスクは増大する。船舶のセキュリティを強化するためには船舶保安員と港湾保安員との間に綿密な協力関係が不可欠だ。
• 最優先事項は舷門での厳重な警備体制である。密輸人は、警備が厳重な船舶は避けたいものだ。
• 出入口の数は最小限に抑える必要がある。可能であれば、舷門は1ヶ所とし、厳重に警戒する。パイロットラダーは使用後、必ず引き上げておく。
• ISPSコードには、乗組員と訪問予定者全員のリストとともに、効果的な舷門監視が常に必要であると記述されている。また、乗船する人員のIDを確認することも非常に重要だ。
• 船舶周辺の立ち入りを制限し、甲板上の照明を常時点灯させておくことは効果的な対策である。居住区、倉庫、機関室などへの扉を施錠することによって麻薬などを隠せないようにする。
• 立ち入りを制限するために使用される南京錠やコードロック類は、定期的に動作確認を実施すること。
• 予備品、修理機器もまた麻薬の密輸の容易な経路となるので注意が必要である。
• 防犯カメラが船舶に設置されている場合は、正常に作動しており、適切なエリアが監視できているかを確認する。
• 船舶の周囲（海側を含む）を全体的に監視し、怪しい行動や動きがないかを確認する。密輸人が水中から麻薬を取り付けた事例がある港湾では、定期的にエンジンを回す。
• 麻薬の小包を船内捜索することは少数の乗組員にはハードルが高いだろう。しかし、出航前にハイリスクかつ容易に侵入できるエリアを確認しておくことはできる。
• 船上における厳重なセキュリティを奨励する。乗組員はリスクを認識し、疑わしい行動があれば報告することの重要性を把握しておくべきだ。乗組員が機敏に動き、セキュリティが厳重に守られていると、船舶での麻薬密輸防止に繋がるであろう。