最近アメリカ合衆国で発生した事件が、港で船に何かが起きた際、それが録画されているという可能性を強調しています。
ある船舶がアメリカの東海岸に位置するターミナルで、ばら積み貨物を積載していました。貨物保険者に起用されたサーベイヤーが、荷積みを監視するために訪船しました。ターミナルの形状から、サーベイヤーは通例の舷門やタラップではなく、折り畳み式のハシゴで本船にアクセスしなければなりませんでした。
本船から下船する際にサーベイヤーが落下し、乗組員たちから知らせを受けた船長は現場に急行しました。船長は、サーベイヤーが約6メートル下のコンクリートの波止場に、酷く骨折したことに疑いの余地のない、異様な角度に足を曲げた状態で横たわっているのを目にしました。
ターミナルのオペレーターが救急隊に連絡し、負傷したサーベイヤーは救急車で運ばれて行きました。乗組員たちは波止場に横たわったサーベイヤーの姿と、彼が救急車に担ぎ込まれる姿の写真を撮影しました。
船長はその時間に当直をしていた乗組員に事情を聞き、彼らはいずれも自分が目にしたことについて記載した声明文を用意しました。目撃者たちの回想は、 サーベイヤーが足場を失ったとき、彼はほとんどハシゴの下まで降りていて、そこから短い距離を落下したことで一貫していました。誰もが一様に、サーベイヤーは体重が重すぎたため落下したと意見しました。
P&Iクラブは、船が出航する前に事故の知らせを受けていませんでした。
数か月後に訴訟が提起され、船主は事故時に乗組員から渡された声明文をP&Iクラブに転送しました。これらの声明文は、事故の過失がサーベイヤー側にあったことを示していたため、P&Iクラブは当初、何の責任もなかったという立場を取り、それに従い訴訟における抗弁を進めていきました。
発見
しかしながら、訴訟の過程でターミナルにセキュリティ対策の一環として防犯用のビデオカメラが備えられていることが判明しました。事故の全容がビデオに捕らえられていたのです。
乗組員たちによる書面での声明とは異なり、サーベイヤーはハシゴの蝶番が瞬間的に外れたとき、その頂上から落ちたことをビデオは示していました。乗組員の目撃者が話したように、一段や二段ではなく、彼は約6メートル上方から落ちたのです。
米国の法律では、乗組員により提出された声明は、原告の弁護士へ公判前情報開示の過程で提示されます。声明文は明らかな虚偽であったため、乗組員は公判で容易に信用されないこととなるでしょう。これは、本船側が、信用できる目撃者を弁護のために呼ぶことが出来なくなることを意味します。
ここから学ぶ教訓
ここで学ぶべき教訓が幾つかあります:
- 米国のターミナルで起こる事件はどれも防犯カメラに捕らえられていると常に考えること。
- 記載された虚偽の声明は、反論不可のビデオ証拠により否定され得ることに注意すること。
- 出航前に本船に立会いできるよう、P&Iクラブのコレスポンデント等の関係者には、常に出来る限り早く通知をすること。コレスポンデントはターミナルに防犯カメラのセキュリティ設備があるか否かを知っている場合が多いため、コレスポンデントに速やかに通知をしていれば、調査は彼らのアドバイスに沿って進められたことでしょう。
- コレスポンデントが弁護士の場合、コレスポンデントにより準備された乗組員の声明は弁護士とクライアント間の秘匿特権により、情報開示から保護される場合があります。
- 乗組員により撮影された酷く骨折したサーベイヤーの足の写真は、証拠開示の過程で原告側に明らかにしなければならず、公判に進んだ際には有利なものとならないかもしれません。逆に、これらの写真は、原告の負傷がいかに深刻であったかを陪審員に証明したでしょう。撮影されたいかなる写真も、どちらの側で役立つのかに関係なく、どれも証拠開示の対象となることを教訓とすべきです。
いかなる事故が起きた場合でも(特にアメリカ合衆国では)必要な調査を行えるよう、船長が船主とP&Iクラブに出来る限り速やかに連絡をすることが重要です。
著者: ゲーリー・ヘンフィル(フェルプス・ダンバーLLP社)
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