ドライバルク船の新しい品質基準となるDryBMSが2021年に開始されます。これは、「ドライバルク市場におけるTMSA(Tanker Management and Self Assessment)」とも呼ばれています。ではこれがどういうもので、ドライバルク輸送事業に携わるメンバーの皆様にとって、一体何を意味するのでしょうか。
DryBMSは、ドライバルク業界の代表者から提供された情報に基づき、Rightship社とIntercargoによって共同開発されました。
この自己評価プログラムでは、パフォーマンス、人材、設備、プロセスという4つのセクションが設けられ、その中に30種類の異なる管理項目があり、それぞれ4段階の目標レベルが設定されています。「基本」レベルでは、既存の法的要求事項を満たすことが求められますが、さらに3つのレベル(「中級」、「上級」、「エクセレンス」)を設定することで、各社がベストプラクティスを用いて個々の水準を上げることも可能となります。
4つのセクション
1) パフォーマンス
このセクションの対象範囲は、積極的なHSSE(Health, Safety, Security and Environment: 衛生・安全・セキュリティ・環境)に対する目標や、企業内のカルチャーに基づいております。例は以下の通りです:
- 企業のHSSEに対する取り組み
- HSSEの目標およびKPI (Key Performance Indicators: 重要業績評価指標)
- SMS(Safety Management System: 安全管理システム)の文書管理
- 監査計画、見直し及びクロージング
2) 人材
このセクションの対象範囲は、積極的な人事(ヒューマンリソース)ポリシーを中心としています。問われるのは、船員と陸上事務員の両方に対する選択基準、採用方法、研修の基準などの点です。乗組員の福利厚生も含まれていることが重要なポイントとなります。
3) 設備
タイトル名が示すように、このセクションは、船舶の機器、その修理や点検、および目的に適っているかどうかの確認作業となります。対象範囲は、入渠検査、重要機器や計画的なメンテナンス等があります。
4) プロセス
このセクションでは「いかに安全に実施するか」という点が対象となります。対象範囲は、係留、荷役、バラスト操作、ブリッジでの手順と言った日常的な業務のほか、セーフティー・カルチャー安の改善、サイバーセキュリティ、緊急時対応計画を含みます。
目標レベル
DryBMSは自己評価に基づいています。各社が設定した目標レベルに照らしてそれぞれの対象分野を見直し、目標レベルを満たしていることを示す証拠を収集する必要があります。
- 基本レベル
本船の旗国や船級協会が定めた取引に必要な最低基準を満たしているというレベルです。船会社は、幾つかのHSSEに関する目標を設定し、すべての関連する業界ガイドライン及び承認されている通常のベストプラクティスに整合していなければなりません。
- 中級レベル
基本レベルの要求事項をすべて満たしている場合でも、マニュアルの中に任意のベストプラクティスを策定し、さらには継続的な改善プロセスを実施していくことが推奨されます。これのレベルでは基本的な要求事項以上のリスク管理の実施を証明します。
- 上級レベル
中級レベルの要求事項を満たし、継続的な改善プロセスが実施されているだけでなく、それが効果的に運用されていることを示すことができます。例えば、将来を見据え、新しい法律やガイドラインが施行されるよりも前に要求事項に対応していることや、HSSEやその他新たなリスクに関し設定したKPIを、ツールで管理していることも挙げられます。
- エクセレンス
上級レベルの項目をすべて満たし、先行指標を収集・分析し、新たなリスクを評価するというレベルです。重要なことは、HSSEリスクから生じる問題に対処し、かつ、正しく終結させるためのシステムを保持していることです。
自己評価とは
では、もし最高の目標レベルを満たせない場合、その会社は不十分なオペレーターだと見なされるのでしょうか?。
答えは「いいえ」です。重要なことは、目標レベルを設定するのはご自身であり、この規格の設定者ではないと理解することです。これらのレベルは、すべてのオペレーターが「エクセレンス」という目標レベルに到達しなければならないという主旨で設定されたわけではありません。
TMSAではタンカーの事業者が自身と自社ビジネスにとって最適なレベルを決めますが、多くの事業者は最上位のレベルを選びません。DryBMSでは、実施する各社が達成したいレベルを選択することが可能となります。経営陣は、自社の用船者・取引・船舶のニーズに基づく目標を決める必要があります。
参加企業が目標レベルを一度設定した場合、そのプロジェクトは企業のシニアマネジメントによって推進されることが重要となります。しかしながら、一人の人間がすべてを抱え込む必要はありません。例えば、人事部が「人材」のセクションを担当するなど、関連する対象分野の部署に関わってもらうことも考えられます。
この規格には、期待値や目標値、そして提出された書類・情報が含まれますが、当然ながら、絶対的なリストはありません。
複数のチームから提出される書類・情報を収集後、各部署の結果を記録し、オンラインの自己評価フォームで対象分野ごとの自己採点を行います。必ずしも書類・情報のアップロードは必要ではないかもしれませんが、発見された書類・情報と、それが設定した目標の基準を満たしていることを示す説明が求められます。
スコアリング
各項目のスコアは以下に基づきます:
- レベルを満たしていない0%
- 改善の余地が十分にあるレベル25%
- 部分的に満たされているレベル50%
- 実質的に満たされているレベル75%
- 完全に満たされているレベル100%
各セクションのパーセンテージを合算して100で割ると、4段階でレベルが分かります。採点結果は、各社毎のオンラインダッシュボードに記録され、用船者などの第三者へアクセスを許可することが出来ます。
DryBMSに関するよるあるご質問
DryBMSが独自に船舶を調査したり、書類・情報を検証するのか?
現在のところ、そのような予定はなく、DryBMSは純粋な自己評価のプロセスに過ぎません。当然ながら、上記調査や検証に関し、用船者が将来的に何を希望するかをコントロールすることは出来ません。
運航業者が最高のレベルに値しないにもかかわらず、何らかの方策により最高の評価が与えられることを阻止できるか?
そのような方策はありません。なぜなら、DryBSMは信頼ベースで成り立っているためです。但し、虚偽の陳述であれば、その信頼は長続きしないと考えられます。というのも用船者が、「エクセレンス」レベルで運航されていると理解した上で船舶を用船する場合、貨物や実際の安全性に問題が生じれば、疑義が生じると考えられるためです。
DryBMSは、このようなケースを「自分自身に嘘をついただけ」と整理します。このシステムの明白な利点の一つは、オペレーターが会社の改善点を把握できることです。安全性に関する記録はある時点で停滞するものですが、DryBMSの利用によって安全性と効率性の両面で、どこを改善すれば良いのかに焦点を当て、再び改善向けて取り組むことが出来ます。
大仕事に思えるが、何から始めればいいのか?
DryBMSは、3つの分野にまたがる17の優先課題を設定しています。これらはいずれも安全性に関わる重要な項目であるため、まず最初に取り組むべきものといえます。まずはこれらに目を向けて、「書類・情報」について考えることから開始できるでしょう。
第三者に依頼した方がややこしくないのでは?
DryBMSの見解は異なるようです。これらの規格と対象範囲を検討した方々は、全体的に見て、目標を設定しその達成を証明することはすでに実施されてきたことであると理解しています。これを活用するには時間がかかるかもしれませんが、導入について第三者のプロバイダーに経費を割くべきとは考えられません。また、会社の従業員にとっても、部署内での役割を理解しご自身のものにするための学習プロセスにもなるはずです。
DryBSMは強制的にやらされることになるのでは?
いいえ、DryBMSの導入は任意です。しかしながら、業界からの理解が得られれば、用船者はコストだけでなく安全基準に基づいて取引先をより深く考えるようになるかもしれません。そのため、消極的な方々にも参加してもらう必要があるかもしれません。
この記事の執筆にあたり、Rightship社のルーク・フィッシャー氏(Luke Fisher)及びIntercargoのポール・マーカイズ氏(Paul Markides)にご協力をいただきました。
詳細について
この規格案はDryBMSのウェブサイトでご覧いただけます。 https://drybms.org/guidelines/.